母が言った。
ご飯が炊き上がったら、すぐに用意しておいた合わせ酢をかけまわす、サッとご飯を返したら酢が煮えないうちに盤切にあけて広げ、うちわであおぎながら手早く切るようにご飯を混ぜる、グズはあかん。
ちびちび味見しながら合わせ酢をかけるな、一気にやれ。
母は合わせ酢を「米4合に対して、酢○合、砂糖○匁、塩○グラム」と教えてくれたので、匁をグラムに直したメモを持って嫁入りした。
だから、寿司を作るときは、全て米4合単位でやる。
芯にする具材も、鮭缶で作ったそぼろ、しいたけの煮たの、かんぴょう、卵焼き、三つ葉、奈良漬け(最低でも大和屋)と決まっている。
すし飯4合が多かろうが少なかろうが4合でやる。
海苔巻きは、具材を揃えておいて、食べる前に巻く。
昨夜、娘が帰ってきたので、海苔を出してきて巻いていたら、明日の弁当に欲しいという。
「ムリかな?」
「ま、大丈夫でしょう。煮たものはいいけど、卵焼きと三つ葉は明日の朝起きて新しいのにするわ」と返事した。
私の〝茶色のご飯〟をリクエストしてくるのは珍しい。
うん、久しぶりだからね。
残ったすし飯をザッと勘定すると4本分くらい。
朝、1時間もあれば十分出来るとふんだのだが・・・。
------------
令は朝から海苔が出てきたので、大騒ぎ。
いつもならちぎってやるのだが、それどころではないので、無視していたら、テーブルの上に乗ってきて、海苔の袋をズルズルひっぱって下へ落とす。
安全なところへ持っていって食べる気なのだ。
これは仕事にならないと、令を掴まえるのに、海苔を一帖犠牲にしてとっつかまえて、令の部屋に閉じ込めるまで30分、無駄にしてしまった。
姉ちゃんの弁当に、1本半。
息子に送るのに2本半。
端っこは私とナナで始末する。
朝6時、亭主が起きてくる前に、テーブルの上に広げた盤切、巻き簾、手水のボウル、バット、ふきん、いろんなものを片付けなければならない。
何より、出来上がった巻き寿司を隠さねばならない。
見つかると、
「あ、寿司、まだあった?今日の昼と夜、それにしてよ」
とツバつけるに決まっているから。
息子に送る分と言うと、別にちょっと作ればいいじゃないか、と言う(言うに決まっている、今までもそうだった)。
息子に4合分の寿司を送るわけにはいかないし、寿司が続けば亭主は「飽きた」と言うに決まっている。
娘ももうリクエストなんかしないだろう。
足りないくらいがちょうど良い。
4合単位はなかなかの難物なのだ。
-----------
母たちが亡くなって、そろそろ10年になる。
入院していた時を除き、毎月花を飾ってきた。
だいたい12日に花を買いに行き、13日はお墓、14日は実家と決めているのだが、この頃花屋のオヤジがどうもこの毎月のルーティンを覚えたようで、なぜだか、私の好みの花が入れてある(ような気がする)。
ちょっと変わった花が好き。
有難いけど、もうちょっと枝ものを入れてくれないかな?
今流行のブーケは好きじゃないんだ。